札幌高等裁判所 昭和51年(行コ)3号 判決 1982年6月22日
控訴人(原審原告)
佐々木弘
外四三名
右控訴人ら訴訟代理人
江沢正良
吉原正八郎
大島治一郎
入江五郎
高野国雄
下坂浩介
被控訴人(原審被告。以下被控訴人という)
北海道知事
堂垣内尚弘
右指定代理人
小沢義彦
外八名
被控訴人(参加人。以下参加人という)
北決道電力株式会社
右代表者
四ツ柳高茂
右訴訟代理人
山根篤
同
下飯坂常世
同
海老原元彦
同
村松俊夫
同
山田弘之助
同
田村誠一
同
広岡得一郎
同
河谷泰昌
同
斎藤祐三
同
広田寿徳
主文
一 原判決中、控訴人の本件埋立免許処分取消請求に関する部分(主文第一項)を取消す。
二 控訴人の右本件埋立免許処分取消請求の訴を却下する。
三 控訴人らの主位的控訴及びその余の予備的控訴を棄却する。
四 訴訟の総費用は控訴人らの負担とする。
事実《省略》
理由
一 主位的申立について
1控訴人らは、原審の判決手続には口頭弁論を終結しないで判決をした違法がある旨主張するが、本件記録によれば、昭和五一年二月二四日の原審第一三回口頭弁論調書には「裁判長 弁論を終結する」との記載があること、その後同年七月二〇日原審裁判所裁判長が判決言渡期日を同月二九日午前一〇時と指定し、同日控訴人ら代理人にその旨告知したところ、同日控訴人ら代理人から、控訴人らの前記「主位的申立に関する主張」とほぼ同旨の口頭弁論調書の記載に対する異議申立及び第一三回口頭弁論調書中の弁論終結の記載は誤りであるから口頭弁論期日の指定を求める旨の申立がそれぞれ書面でなされたが、原審裁判所は、同月二九日口頭弁論期日(判決言渡期日)を開き、同期日において控訴人ら中一部の者からなされた裁判官忌避申立をいわゆる簡易却下したうえで原判決の言渡をしたこと、他方控訴人ら代理人から昭和五一年二月二四日に原審裁判所裁判官全員に対する忌避申立がなされていたが、同申立は却下され、更に同年五月一二日札幌高等裁判所からそれについての抗告棄却の決定があり確定したことがそれぞれ認められ、右認定に反する資料はない。以上のとおりであるから、原審第一三回口頭弁論期日における審理が控訴人ら主張のような経緯であつたことを認めることはできない。
よつて、原審の判決手続には口頭弁論を終結しないで判決をした違法がある旨の控訴人らの主張は採用することができない。
2次に、控訴人らは、原審裁判所の証拠の採否及び証拠調の際の訴訟指揮が著しく不公平であつて、それは審理不尽というべきであるから、原判決を取消したうえ原審に差戻すべきことを求めているが、本件記録上明らかな原審裁判所における口頭弁論及び証拠調の経過によつても、原審裁判所の証拠の採否及び証拠調の際の訴訟指揮が不公平であり、かつ審理をつくさないものであるとの事実は、これを認めることができないから、右主張も採用しえない。
二 予備的申立について
1控訴人らは、本件訴訟において、被控訴人のした昭和四八年六月二五日付公有水面埋立免許処分及び昭和五〇年一二月一八日付公有水面埋立工事竣功認可処分の各取消を求めているものであるが、行政庁の処分に対し不服申立をすることができる者は、行政事件訴訟法九条により、当該行政処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消によつてこれを回復すべき法律上の利益をもつ者に限られるべきであり、右にいう法律上保護された利益とは、当該行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、右利益の存否は当該行政処分の根拠となつた実体法規が右利益の保護をはかる趣旨を含むか否かによつて決せられるべきものであり、また行政処分の直接の相手方ではない第三者の訴の利益については、当該行政法規の趣旨、目的に判断の基準をおき、第三者のために法律がとくに保護している利益を無視して行政処分のなされたときにのみ、当該処分の取消を求める利益があるものと解すべきである。
2そこで、この点を本件につき検討する。
(一)次の事実は控訴人ら及び被控訴人間に争いがない。
(1) 被控訴人は参加人に対し、昭和四八年六月二五日、伊達火力発電所(伊達火発)新設工事に伴う取水口、取水路、物置場、荷置場などの施設(取水口外かく施設)用地の造成のため、港湾二九号指令をもつて、伊達市長和町三一五番地の二、同町三一六番地の一及び同番地の二並びに国有鉄道用地の地先3万3795.90平方メートル(昭和五〇年五月一四日付被控訴人の変更許可により2万2092.42平方メートルに面積が縮小)の公有水面(本件公有水面又は本件埋立地)につき埋立(本件埋立)免許処分(本件埋立免許処分)をし、昭和五〇年一二月一八日、本件公有水面の埋立工事竣功認可処分(本件竣功認可処分)をした。
(2) 控訴人佐々木弘、同佐々木格(伊達控訴人ら)は伊達漁業協同組合(伊達漁協)の、その余の控訴人ら(有珠控訴人ら)は有珠漁業協同組合(有珠漁協)のそれぞれ正組合員であり、伊達漁協は本件公有水面を含む海域に第一種区画漁業権(海区四八号)及び第一ないし第三種共同漁業権(海共一三五号)を有し(原判決別図(一))、有珠漁協は、右海域の北西側の海域に第一種区画漁業権(海区四七号)及び第一ないし第三種共同漁業権(海共一三四号)を有し(原判決別図(二))、控訴人らは、各所属漁業協同組合(漁協)の漁業権行使規則により前記各海域で漁業を営む権利を有していたところ、本件埋立免許処分当時における右各漁業権は、昭和四八年八月三一日をもつて存続期間の満了により消滅するに至つたが、同年九月一日、右各漁業権に対応する漁業権として、伊達漁協は、第一種区画漁業権(伊海区一号)及び第一ないし第三種共同漁業権(胆海共七号、八号)の免許を受け、有珠漁協は、第一種区画漁業権(伊海区二号)及び第一ないし第三種共同漁業権(胆海共五号、六号)の免許を受けたが、伊達漁協が右昭和四八年九月一日に免許を受けた右漁業権の漁場の区域には本件公有水面を含む海域(原判決別図(三)赤斜線部分)は含まれていない。
(3) 本件埋立免許処分がされるに至つた経緯は次のとおりである。
① 参加人は、昭和四五年ころから伊達市長和町に出力七〇万キロワット(出力三五万キロワット二基)の伊達火発の建設を計画していたが、その建設工事計画の一環として前記3万3795.90平方メートルの公有水面を埋立て取水口外かく施設を、同町二二七番地の二地先の公有水面に放水口施設を各建設するべく(原判決別図(三)赤斜線部分)、かねてから右各公有水面を含む海域に区画漁業権及び共同漁業権を有する伊達漁協に対し、原判決別図(三)のとおり漁業権の変更(漁業権につき右各公有水面部分を消滅させること)を要請した。
② 伊達漁協では、右要請を受け、昭和四七年五月三一日の第二三回通常総会において、水協法四八条、五〇条に基づき、右区画漁業権及び共同漁業権の漁場の区域を、従前の区域から取水口外かく施設に必要な区域及び放水口施設に必要な区域を除く区域とする漁業権の変更につき審議を行ない、議決権を有する全組合員一四六名(本人出席一二五名、委任状出席二一名)の無記名投票の結果、賛成一〇三票、反対四三票をもつて原判決別図(三)の赤線部分の公有水面につき漁業権を消滅させる旨の漁業権の変更を議決した。
また、右総会においては、伊達火発の建設に伴う公害防止に関する基本的協定事項及び漁業補償に関する基本的協定事項についても、組合員全員の賛成で議決された。
③ 伊達漁協は、右総会の決議に基づき、昭和四七年六月三〇日、伊達市長を立会人として、参加人との間に、伊達火発の建設に伴う漁業に対する影響の緩和、被害の防止及び漁業補償などに関する協定を締結した。右協定では、漁業補償などに関する条項として、参加人は伊達火発の建設のために必要とする海域(原判決別図(三)の赤線の範囲にとゞまらない)につき、伊達漁協又はその所属組合員が受ける漁業損失に対する補償金として四億五〇〇〇万円及び温排水利用の研究開発に対する協力金として二〇〇〇万円を支払うこと及び伊達漁協は協定締結後速かに法令に基づく漁業権変更免許の申請をして免許を受けることが取決められた。
④ 伊達漁協は、昭和四七年八月一四日、右総会の決議及び協定の締結に基づき、参加人に対し、エントモ岬東側における取水口外かく施設用地の造成を目的とする本件公有水面の埋立に同意した。
⑤ 参加人は、昭和四七年八月一四日、以上の経緯を経て被控訴人に対し、旧埋立法二条に基づき、取水口外かく施設用地の造成のため、前記3万3795.90メートルの公有水面の埋立免許の出願をした。
⑥ 本件埋立の免許出願を受けた被控訴人は、昭和四七年九月八日、旧埋立法三条の規定により、伊達市議会に対し諮問を行ない、同年一〇月五日、可とする旨の答申を受けた。
右答申を受けた被控訴人は、(イ)伊達火発の建設計画が既に国の電源開発基本計画案に組み入れられており、その後電源開発調整審議会の承認を経て、昭和四七年一一月一七日、内閣総理大臣が右計画案のとおり基本計画を決定し、告示した(電源開発促進法三条)こと、(ロ)一方、参加人においても、伊達火発の建設のための電気工作物の変更許可を申請し(電気事業法八条)、同年一一月二四日、これが通商産業大臣によつて許可基準に適合するものとして許可され(同法五条)、その建設期間を同日から三年以内として指定され、その結果、参加人は、右指定期間内に伊達火発を建設して操業しなければならない義務を負つている(同法八条四項、七条一項)ことなどから、本件埋立ての必要性、公益性を認め、かつ右埋立ては、伊達漁協の区画漁業権及び共同漁業権に係る漁場の区域内の一部を埋め立てるものであることから、旧埋立法四条一号の同意の有無について調査を行なつたうえ、昭和四八年六月二五日、旧埋立法二条の規定により、本件埋立免許の出願に対する免許処分を行なつた。
(二)右(一)の争いない事実、<証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 参加人は、昭和五〇年三月一二日、被控訴人に対し、公有水面の埋立面積を当初の3万3795.90平方メートルから2万2092.42平方メートルに縮小することを内容とする公有水面埋立免許の変更許可を出願し(原判決別図(四)参照)、右を受けて被控訴人は、同年五月一四日、審査のうえ出願どおり変更を許可し、更に被控訴人は、同年一二月一五日工事竣功検定を実施したうえ、同月一八日参加人に対し本件竣功認可処分を行つたことが認められる(被控訴人が右面積縮小の許可及び本件竣功認可の各処分をしたことは前記のとおり当事者間に争いがない)。
(2) 伊達漁協は、前記(一)、(3)、②ないし④の手続を経た後の昭和四七年七月四日、被控訴人に対し、本件公有水面を含む海域につき、同漁協が有する区画漁業権(海区四八号)及び共同漁業権(海共一三五号)の各漁場の区域から伊達火発の取水口外かく施設及び放水口施設に必要な区域(原判決別図(三)の赤斜線部分)を除く区域とすることを内容とする各漁業権の変更免許申請を行ない、右を受けた被控訴人は、昭和四八年六月二五日、伊達漁協に対し右申請どおり漁業権変更免許処分をした。そして、前記のとおり同年九月一日、同漁協及び有珠漁協に対して新たに漁業権の免許がされているところ、その第一種区画漁業権及び第一ないし第三種共同漁業権とも、いずれも従前の漁業権の漁場たる区域と変りがないが、伊達漁協については、前記取水口外かく施設及び放水口施設に必要な区域の公有水面は、右漁業権の漁場の区域に含められていない。
そして、本件埋立免許処分当時、伊達漁協の海区四八号第一種区画漁業権の存する海域と前記有珠漁協の海区四七号同区画漁業権が存する海域、伊達漁協の海共一三五号第一ないし第三種共同漁業権の存する海域と有珠漁協の海共一三四号同共同漁業権が存する海域はそれぞれ相接しており、その境界は、エントモ岬の先端からほぼ南西方向(噴火湾の中心方向)に向う直線であつた(原判決別図(一)及び(二))。
(3) 参加人が本件埋立免許処分に基づき本件埋立地上に建設する施設は、伊達火発建設に伴う取水口外かく施設であり、その規模は、東埋立護岸四一〇メートル、東防波提一〇九メートル、西防波提一六五メートルなど全体の総面積で4万4307.15平方メートル(前記面積縮小により3万2502.19平方メートルとなつた)であるが、右施設と伊達漁協及び有珠漁協が前記漁業権を有している海域とは近接した位置にある(原判決別図(一)ないし(四))。
(4) 参加人が伊達漁協に対して支払を約束した前記補償金等四億七〇〇〇万円は、約束どおり伊達漁協に支払われた。
また、昭和四九年六月一七日、参加人と有珠漁協との間に、伊達市長を立合人として、伊達火発の建設に伴う漁業に対する被害の防止、損害発生の場合の補償などに関する協定が締結されるとともに、漁業振興資金の名目で三億六〇〇〇万円、再建助成金の名目で六〇〇〇万円、計四億二〇〇〇万円を参加人から有珠漁協に支払う旨の覚書が交わされた。そして、右金員の支払は履行され、有珠漁協の各組合員に配分された。
(三)そこで、以上の事実に基づき、控訴人らが、被控訴人の本件埋立免許処分により侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある権利を有しているか否かにつき検討する。
(1) 伊達控訴人らは、昭和四七年五月三一日開催の伊達漁協総会の漁業権放棄の決議は無効であつて伊達漁協は本件公有水面に漁業権を有していたところ、本件埋立免許処分は本件公有水面に権利を有する者が存在しないものとしてなされた違法なものであるから、伊達漁協が本件公有水面を漁場区域に含めて漁業権の免許申請をするなどの方法をとれば、本件公有水面は当然伊達漁協の漁業権の漁場の範囲に含められ、従つて同漁協の組合員として漁業を営む権利を有する伊達控訴人らは、本件訴を提起することができる旨の主張をしているので、この点につき考えることとする。
伊達控訴人らは、伊達漁協の総会決議無効の理由として、水協法五〇条は憲法二五条、二九条、三一条に違反すること、漁業権の放棄には、水協法五〇条による総会の特別決議のほか、漁業法八条の書面による同意を要すること、仮に水協法五〇条の総会の特別決議のみによるとしても、伊達漁協の前記総会決議における漁業権放棄賛成者は同条の法定多数に達していないこと、同総会決議は、意思表示の重要な部分に錯誤があるから無効であることを主張しているが、右各主張については、当裁判所も、原判決がその理由第三、一、2、3、5及び4において説示するとおりいずれも理由がないものと認めるので、右説示を引用する。従つて、本件公有水面における伊達漁協の漁業権は、前記(二)(2)で説示したとおり、被控訴人の漁業権変更免許処分により確定的に消滅し、これに伴い、本件公有水面における伊達控訴人らの漁業を営む権利も消滅し、昭和四八年九月一日伊達漁協に対し新たに漁業権の免許がされているが、取水口外かく施設及び放水口施設に必要な区域の公有水面については、右漁業権の漁場の区域に含められていない。
(2) 有珠控訴人らは、有珠漁協が法令又は慣習により本件公有水面から引水をし又は本件公有水面に排水をする者であり、仮に右に該当しないとしてもこれに準ずる者であると主張するが、有珠漁協の有する漁業権の区域が本件公有水面に近接していることは前記(二)(2)及び(3)説示のとおり認められるところ、右両海域間に海流が交流しうるとしても、同漁協がそのことにより公有水面埋立法五条三号、四号の引水又は排水権者に該ると解することはできないし、その他同漁協が右の権利を有することを肯定するに足りる証拠はない。
以上のとおりであつて、控訴人らは、旧埋立法四条(新埋立法四条三項)及び五条が規定している「埋立スル工事ノ施行区域内ニ於ケル公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者」には当らないというべきである。
(四)次に、控訴人らが、被控訴人の本件埋立免許処分に対し前記法律上保護された利益を有しているか否かにつき検討する。
(1) 本件埋立免許処分に基づき本件埋立地に建設される施設の用途・目的、規模、更に右埋立地と伊達漁協及び有珠漁協の有する漁業権海域との位置関係については前記(二)(2)及び(3)において認定のとおりであり、また、漁業権は、漁協又はこれを会員とする漁協連合会に帰属するが、その構成員たる個々の組合員は、漁協又は漁協連合会の定める漁業権行使規則に従つて漁業を営む権利を有していることが明らかである(漁業法八条)ところ、前記<証拠>によれば、控訴人らは、本件埋立免許処分当時から、それぞれの所属する伊達又は有珠漁協の定める漁業権行使規則に基づき、各漁協の有している前記漁業権区域内(但し、伊達漁業の漁業権区域から本件公有水面を含む原判決別図(三)赤斜線部分が除外されるに至つたことは前説示のとおり)の海域で現実に漁業を営んでいることが認められる。
(2) ところで、公有水面埋立法は、国民共通の資産としての公共用物である公有水面につき、これを埋立てて利用することにより公共の利益を増進しようとするもので、公益の実現を目的とするものであるところ、同法は当該埋立に関する工事の施行区域内の公有水面に関し権利を有する者を保護するために行政権の行使を規制しているが(同法四条、五条)、それ以上にわたつて同法による埋立工事又は埋立地上に建設の予定されている施設の操業に伴つて、埋立工事施行区域外である周辺海域で漁業を営む者(漁協の定める漁業権行使規則により漁業を営む権利を有するか否かを問わず)の漁業につき生じうる漁獲の減少その他の被害や影響に対して、右の者らが同法上保護された利益を有することを認めるに足りる規定は存在しない。
従つて、右同法のもとにおいては、埋立に関する工事の施行区域内の公有水面の周辺海域において漁業を営む者は、仮に右のように埋立工事又は埋立地上に建設される施設の操業により何らかの被害を受け又は必然的に被害を受けるおそれがあるとしても、前説示のとおり周辺海域に漁業権を有する伊達及び有珠漁協が埋立権者である参加人との間に被害の防止及び補償につき協定をしているように、埋立権者に対し事前に被害の予防若くは補償を求め、又は事後に被害の填補を求めるなどにつき何らかの合意をすることは格別、法律上保護された利益を有するとして行政事件訴訟法により公有水面埋立免許処分の取消を求めることは許されない。
なお、既存の公衆浴場営業者が第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認訴訟を求めることは否定されていないが(最判昭和三七年一月一九日民集一六巻一号五七頁)、右の場合は、少なくとも営業許可処分の基準について定める公衆浴場法二条二項には、公衆浴場の「配置の適正」であることが要件のひとつとして規定されているのであつて、旧埋立法に基づく本件の場合とは事実を異にしている。
(3) また、控訴人らは、新埋立法で創設された四条一項一号(「国土利用上適正且合理的ナルコト」)、二号(「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルトキ」)が、控訴人らの利益を保護した規定であり、旧埋立法下でも同趣旨に解すべきである旨主張している。
しかし、新埋立法の右各規定が定めている事項については、旧埋立法の下においても、当然のこととして事実上公有水面埋立免許処分の際考慮されていたものと推測されるが、右各規定は、国民共通の資産である公有水面を埋立によつて利用することが、国土利用の見地からみて適正、合理的なもので、公益を維持増進するという目的に適合するものであること(一号)、また国民の健康の保護と生活環境の保全のため一定水準以上の環境の確保につき配慮されているという公益目的に適合するものであること(二号)との行政目的上の抽象的基準を定めたものであると解されるのであつて、埋立地又はその周辺海域における漁業を営む者の利益として、同法上これを保護したものであると解することはできない。
従つて、新埋立法四条一項一号、二号に関する控訴人らの右主張も失当である。
なお、控訴人らの原審におけるいわゆる環境権侵害の主張(原判決請求原因三、4)については、その環境権なるものの内容が一般的、抽象的であつて、それをもつて、到底前記法律上保護された利益として控訴人らの当事者適格を基礎づけるものとはなしえない。
(五)公有水面の埋立免許処分により公物である公有水面を占用して埋立工事をする権能が免許を受けた者に与えられるが、竣功認可は、右埋立工事の完成を確認するとともに、埋立者に埋立地の所有権を取得させる行政処分であると解される。
そうすると、前記(一)ないし(四)において説示したと同じ理由により、控訴人らは、被控訴人による本件公有水面の埋立工事竣功認可処分により侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある権利若くは法律上保護された利益を有しているということはできない。
3以上のとおりであつて、控訴人らは本件埋立免許及び竣功認可各処分の取消を求める法律上の利益を有するものとは認め難く、本件訴訟はいずれも原告適格を欠く不適法なものである。
三よつて、控訴人らの主位的控訴については理由がないからこれを棄却し、予備的控訴については、控訴人らの被控訴人による本件埋立免許処分の取消を求める訴につき、行政処分によつて法律上保護に値する利益を侵害される者は当該行政処分取消訴訟を提起しうるとして、控訴人らの原告適格を肯定した原判決の判断は、その余の点につき判断を加えるまでもなく失当であるから、民事訴訟法三八六条により取消したうえ右訴を却下し、控訴人らの被控訴人による本件竣功認可処分取消を求める訴につき、控訴人らの当事者適格の存在を前提としたうえ訴の利益がないとしてこれを却下した原判決の判断は、その理由によれば不当であるが、前説示の理由によつて右訴は却下すべきものであつて、その理由は異るが、結局において右訴を却下した原判決は正当に帰するから、同法三八四条二項により右控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(安達昌彦 澁川滿 大藤敏)
別図一、二<省略>